BLOWIN'




「敦賀さん、ありがとう!」



小さな小さな子供タレントが蓮に向かって嬉しそうに笑いかけた。その「僕」が遊んで投げているうちに木の上に引っ掛かってしまったボールを、蓮が取って手渡した所だ。出番の無い休憩時間を蓮はその「僕」と近くの公園で、二人きりで過ごしていた。


「よかったね。」
「背が高いっていいな〜!僕もそんな風に大きくなってみたい。」
「なれるよ。」


そう言いながら蓮は一度しゃがむと、その男の子を片腕に抱えて立ち上がった。


「どう?オレの見ている景色。もう少しだけ大きくなったら君も同じ景色が見えるよ。」
「わぁ〜・・・・」


蓮はそう言いながら、木の枝に「僕」を乗せて、「枝につかまって」と言った。「僕」はもう憧れの眼差しで蓮を見て、その見たことも無い高い風景に目を輝かせている。



「僕」は、しばらく風に吹かれて気持ち良さそうに、遠くを眺めていた。



「さぁ、降りよう。おいで。」


そう蓮が言った時、ほんの少しの強い風が吹いて、「僕」は木にしがみついた。


「大丈夫だよ。抱きとめるから。降りておいで。地面に落ちることは無いから。」


蓮が子供の身体に手を伸ばし、しがみつく体を優しく撫でる。
「僕」は、恐る恐る身体を宙に投げ出し、蓮の身体の中にすっぽりと収まった。


「がんばった。よく手を離せたね。」
「だって、敦賀さんだもん。」


全幅の信頼を置いた目で、「僕」は蓮にもう一度、ありがとう!と嬉しそうに言った。



「敦賀さぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」


遠くからキョーコが呼んだのを、「僕」が身体をねじり、振り返る。


「敦賀さん、キョーコちゃんが呼んでるっ!」


ふぅ、ふぅ、ふぅ、と息を切らして走ってきたキョーコに、蓮はそっと綺麗に微笑む。
蓮の腕に抱えられた「僕」は、キョーコを見て、蓮を見て、一瞬不思議そうな顔をする。


「一緒に公園で遊んでいたんだ。」
「もう〜〜〜〜社さんの目の届かない所に行かないで下さい。探していたんです。」
「君の作ってくれたお弁当をね、二人で食べたんだよ。美味しかった。ね?」
「キョーコちゃんの作ってくれたサンドイッチ、美味しかった!!」


蓮の腕に抱えられた「僕」は、キョーコにも、ありがとう、と言った。
蓮も、穏やかに神々しいオーラを纏い、微笑む。
キョーコは、照れて俯いた。


「それならいいんですけど・・・・。」
「ねぇ、ねぇ、敦賀さんっ。」


「僕」は、蓮の耳に手を当てると、


――ねぇねぇ、キョーコちゃん、可愛いね。


こっそりささやいた。


「そうだね・・・・。」


――僕、内緒にしておいてあげるね!
――敦賀さんがキョーコちゃんのこと、好きなの!


「いや・・・・。」
「えぇぇぇっ。違うの?」
「・・・・・・・・・。」


子供の言う事を真に受けるのもどうかと思うが、かといって嘘をつく訳にもいかない。


――じゃあ、僕がキョーコちゃんに好きって言っていい?
――僕のコイビトになってって言っていい?


「はは・・・・ダメかな。それは君でも譲れない。」
「でしょ?」


にっこり笑った「僕」に、蓮もにっこりと笑った。コソコソ話を続ける蓮と「僕」にしびれをきらしたキョーコが、


「もう〜〜〜何を二人っきりでラブラブしているんですかっ!!!ずるいですっ。」

と言った。


「親子の練習だよ。」
「そうだよっ!ねぇ〜〜〜〜?敦賀さんっ♪」
「そうそう。」

互いににっこり笑って、「僕」は蓮の首に抱きついた。

「パーパ。遊んでくれてありがとう。」
「くすくすくす・・・・君は本当に演技が上手いな。将来が楽しみだ。さぁ、次の回もこのままよろしくね?」
「うん!分かった、僕、今度はキョーコちゃんのコイビト役っていうのをやりたい!カントクに、僕にもそういうお仕事下さいってお願いしてみようっと♪」



蓮の腕の中からおろしてもらった「僕」は、キョーコの手を握り、もう片方の手で蓮の手を握って、「このままあっちまで帰ろう!」と言って、二人を引っ張った。



二人の手の間で、「僕」はいつしか二人に腕を持ち上げられて、宙に浮いていた。
「僕」が笑う大きな声が、誰もいない公園に響いていた。













2007.09.26