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「はい、これが新しいポッキーのCMの絵コンテ。」

社は松島から預かっていたCMの絵コンテを蓮に見せた。
パラパラとめくると今までの蓮とは大きくイメージの違う内容である。

「・・・・・。これ、本当に俺がやるんですか??」

まあ当然の反応である。内容は「個性派女性との見合いの席で緊張感が極限までに達した蓮が突然女性の手を取り踊りまくる」というもの。見合いの席というのはともかく踊りまくるというのがどうもひっかかるようだ。

「なんでこれ・・・俺なんですか?」
「ディレクターがどうしても敦賀蓮にやってもらいたいって言うもんだから・・・・わざわざ社長にかけあったらしいからねー。」
「はあ?社長に?」
「このCMをやらせたいって直談判。社長絵コンテ見てノリノリ。すぐに許可だしたらしいぞ。ていうかむしろやれだって。」
「社長は俺のイメージというものをどう考えてるんだ・・・。」
「大幅なイメージチェンジ、大いに結構って言ってるようだよ。」
「・・・・・」

珍しく仕事に対して躊躇する姿を見せた蓮に社は

「これも社会勉強だよ。いろんな姿の蓮を見せてあげないとね。それこそ『俳優・敦賀蓮』の腕の見せ所じゃないか?」
「・・・・なんかうまく丸め込まれたような気がしますけど・・・やりますよ。」


CMがこの内容で会議に通ってしまった以上どうする事もできない。
蓮はポッキーのイメージキャラクターになった事に初めて抵抗を感じてしまったのだった。





そして本番当日。日本庭園風の情緒あふれる庭がある料亭を借り切っての撮影。衣装のスーツに着替えた蓮はディレクターに挨拶。

「敦賀です。よろしくお願いします。」
「おお、敦賀君か。無理いって悪かったね。よろしく頼むよ。」

そう言ってがっちりと握手を交わす。

「絵コンテの内容は頭に入れてきたか?」
「大丈夫です。」
「君のイメージっていうものがあるとは思うが今回はそれを変えてしまうくらいの勢いでやってくれ。」
「・・・・わかりました。」

ディレクターとの会話が終ってすぐに相手役の女性が現れた。
振袖で髪をアップにし、化粧はまるでおてもやん。
眉はわざと太い布をつけている。

今回のCMはこの女性とお見合いをするという設定である。女の子の両親や仲人さん役もいる。両親役の俳優もやはり眉に布を貼り付け、親子である事を強調させていた。



「敦賀さん。よろしくお願いします。」
「あ・・・こちらこそよろしく。」

相手役の女性と握手を交わす。


「先にダンスのシーンを撮りましょう。今からスタッフ6人が踊りますので」

そう言うと出演者の前にわらわらとスタッフが現れる。
音楽が始まる。カウントの後に
「あなたも私もポッキ〜!あなたもわたしもポッキ〜!!」
というおなじみの曲がスタジオに鳴り響く。
そしてスタッフ6人が一斉にステップを踏む。
左手を腰にあて、右手にはポッキー。足はルンルンと軽やかにその場で駆け足のようなステップである。
そして蓮役のスタッフはとにかくにこやかにしていた。

「・・・とまあこんな感じだ。簡単だろ?ただポッキー食べるフリのタイミングだな。まあ何度か練習すれば大丈夫だろう。早速やってみようか。最初は前でスタッフが一緒に踊るからそれ見ながらやってくれ。」

いきなりの本番モードにダンスの準備もさせてもらえない蓮。

「はーい、じゃあまず最初いきますねー。」

蓮はポッキーを食べるフリのタイミングを図っているようだ。

「ブツブツ・・・あなたも私もポッキー・・・・のポかな。」

蓮役のスタッフにコツを聞いてみた。

「そうですね。そんな感じで顔は常にスマイルでお願いします。」
『笑顔笑顔・・・・。どんな笑顔でいいんだ?』

と思ってると途端にカウントが鳴り出した。


カッ、カッ、カッカッカッ。


「あなたも私もポッキー、あなたも私もポッキー!」
「はいっ!!」
「あなたも私もポッキー!あなたも私もポッキー!」

出演者全員なんとか音楽についていけているようである。
蓮は持ち前のカンのよさで危なげなくダンスをこなしているのだが。


「敦賀君はもうなんとでもなれ!みたいな感じではじけた笑顔をカメラに向けてくれよ。」
「・・・はじけた・・・ですか?」
「笑顔全開の敦賀蓮でいこう。」

何度か練習していくうちにステップにも慣れ、いよいよ本番に突入することになった。
ポッキーを食べるふりの格好がイマイチ決まらないのか何度もポキンと食べるふりを繰り返す蓮。

「敦賀くん、ポッキー食べるふりはあれでいいよ。とにかく全開笑顔だからね。」
「はい、わかりました。」
「じゃ、本番いきまーす。」

そうしてダンスシーンの本番はNGなしで終えることができた。

まだまだ撮影は続く。ほんの序の口であった。
蓮は無事この難しいCMをクリアできるのだろうか。




☆★☆★☆



続いて部屋にテーブルが持ち込まれ、お見合いシーンのセッティングが始まった。

絵コンテによると、「とにかく個性的な女性との見合いで張り詰めた緊張感が漂っている」というシーンを撮影するのだ。

まあここは普段通り緊張しまくっている演技をすれば問題はない。
「どうしよう・・どうしよう・・・」
という焦りと緊張が顔ににじみ出ている。見事な演技である。
個性的な顔の女性を緊張感溢れる演技でじっと見つめる。
女性も何とか蓮の視線に惑うことなく演技をする。といってもただ座っているだけなのだが。


次のシーンは蓮がカメラに向かって
「あなたも私もポッキー!!」
と歌にあわせて力いっぱい歌うシーン。

「これってやっぱりちゃんと歌わないとだめですよね?」

実際にTVで流れるのは今スタジオで使っている歌なので蓮の歌声はお茶の間には届かない。

「歌った方が合わせやすくないか?」
というディレクターの一言で実際に歌う事に。

「口パクではだめだろ?天下の敦賀蓮は。」
自分は歌手ではないのだから別にいいんじゃないかと心の隅で思ってはいたが、『天下の』と言われたからにはやるしかない。

「じゃあ、敦賀君、行くよ。結構アップだからね。気合いれて歌ってくれ。」
「わかりました。」
「よーい、スタート!」

音楽が流れ、「あなたも〜」のフレーズが3回目になるとき。


「あなたも私もポッキー!!!」


「・・・・カーット!いいんじゃない?さすがだね。」
「・・・よかったんですか?」
「大丈夫。君の本気はちゃんと伝わったよ。」


ふう、といつになくハイテンションな演技を要求される蓮はさすがに疲れてきたようでため息をついていた。
それを見た社はすぐに冷えたミネラルウォーターを蓮に渡した。

「あ、ありがとうございます。」
「大丈夫か?」
「・・・なんとか。俺はあと1シーンだけみたいですしね。」

と女性と両親のアップのシーンが撮影されている方向に視線を向けた。

「はい、カーット!よかったよ。じゃ最後だね。女性と敦賀君が手をとりあって最後にカメラ目線するんだ。その時も歌を歌いながらだから。」
そう言うとディレクターはスタッフを2名呼び、これからやるシーンのお手本を見せてくれた。

「あなたも私もポッキー!」

ポッキーと言い終わったところでカメラ目線。


「なんとかできるな?じゃあカメリハ、リハ、本番でよろしく!」
カメラが回される。
「あなたも私もポッキー」というフレーズを今日何回聞いたことだろう。
きっとしばらくは聞くのもイヤなくらいだ。
女性の顔に笑い出す事もなく、真剣に笑顔で演技する敦賀蓮。
イメージチェンジも甚だしい今回のCMでさえもほとんど手を抜かずに真剣勝負でNGなしでクリアした。



「いやあ、さすが敦賀君だねえ。NGなしだ。」
「ありがとうございます。」


ねぎらいの言葉を蓮に送るディレクター。


「悪かったね。コントみたいなマネさせて。」
「いいえ。これも俺の仕事だし・・・。いい出来になってるといいんですけど。」
「大丈夫だよ。きっと話題になるよ。敦賀蓮がダンスを踊ってる・・・って。」
「ははは・・・そうですか・・・。」

ディレクターに対して、乾いた笑いしか出てこない蓮。


「いい作品にするから。楽しみにしてて。」
「はい。」


そう言ってディレクターは再び自分の仕事に戻った。
そして蓮も無事CM撮影を終えたのであった。



時が経ち、あのCM撮影から1ヵ月半が経過したある日。

芸能ニュースでこのCMの話題が放送されるやいなや大反響が沸き起こった。敦賀蓮の新しい一面が見られてよかった、というのが大方の意見だった。

それを聞きつけたキョーコがテレビ局でバッタリ会った蓮に話しかけてきた。


「敦賀さん。こんにちわ。」
「やあ、最上さん。」
「この間から話題になってる敦賀さんのCM、なんだかすごい反響みたいですね。」
「みたいですねって・・・君まだ見てないの?」
「はい・・・。見たいんですけど、私がテレビを観てる時に限ってオンエアしてくれなくて。」


蓮が一生懸命撮影したCMをまだ見れないでいるキョーコは早く見たくてウズウズしているのだった。


「いや・・・別に見なくてもいいよ・・・?」
「え?なんでですか?」
「俺が・・・・・・恥ずかしいから。」
「恥ずかしいって・・・そんな・・・・・ん?」


すぐ近くにあったTVモニターの方角を偶然見るキョーコ。キョーコの視線が止まっているのを察知した蓮も後ろを振り返る。
そこに映っていたものは。



「「あ・・・・」」




視線がモニターに釘づけになる2人。




蓮が緊張感溢れる顔で動きを止めている。
蓮が見つめていたのはおてもやんな顔の家族。
着物を着た女性が今回の見合い相手。
もうどうしたらいいのかわからない状態の蓮。
カコーン
ししおどしの音が沈黙をかろうじて破っていた。でもその音のせいで集中力がなくなった蓮。


カコーン
カコーンカコーンカコカコカコカコカコーン!!!


「あなたも私もポッキー!!!」>突然歌いだす蓮。
「あなたも私もポッキー!!!」>蓮が女性に手を差し出し、意気投合するかのように2人で思い切り笑顔でカメラに向かって歌いだす。


「あなたも私もポッキー!!あなたも私もポッキー!!」>そこに居合わせた6人がポッキー片手に踊りだす。



さわやかな笑顔でもうなんとでもなれ、という感じではじけちゃっている蓮がモニターの中にいた。




「・・・・・・・・」

がっくりとうなだれる蓮。
ぱっかーんと口を開けてモニターを見ているキョーコ。

「・・・・く・・・・くくくくく」


笑いが堪えきれなくなり、とうとうキョーコは・・・・。


「きゃはははははは!!なんですかこれ!!!本当に敦賀さんなんですか?」
「・・・・失礼だね、君は・・・・どう見ても俺でしょ。・・・・ってまたやってるし・・・。」


話題のCMなので何度も続けて流れている。正直今すぐにでもテレビのスイッチをぶちきってやりたかった。


「すごいですねえ!つ、敦賀さんが・・・ステップ踏んでさわやかな笑顔で踊ってますっ!!!!」
「・・・バカにされてるように聞こえるんだけど。」


蓮のキュラリスト笑顔がキョーコに炸裂。それを見たキョーコはすぐに笑うのをやめてフォローする。


「そ、そんな事はないですっ!すごいなあって・・・本当に思ってるんですから!!!」
「・・・・すごいって・・・・?」
「たとえコントみたいなCMでもちゃんと手を抜かずに演技してるんですから!」
「コント・・・・」
「私も見習わないと!どんな仕事も全力投球です!」


と拳を握り締めて力説するキョーコに思わずため息をもらす蓮。

でも、もうこんなCMはご遠慮願いたいな・・・・と思っているのは蓮だけであった。


次のCMもコミカルな内容で、オンエアされるたびにキョーコに笑いを提供しているのであった。




2006.11.1

Special Thanks to SanaSEED様


いつも大変お世話になっておりまするSanaさまより、飾らせて戴く許可を頂いちゃいましたvv昨年の夏の祭典の一日目の夜辺りに拍手で初めて拝見して、もう完全ドツボで妄想暴走・・・「続きを書きたい!」と勝手な事を申したら(汗)ご快諾をいただけて嬉しさに萌えに萌えて、3日目も参加だというのに完徹して我が家の「Sweet Lil' Devil」が出来上がったという、ありがたい事この上ないお話なのでする。とっても個人的に思い入れの強いお話です。ダンスの蓮、ポッキー、おてもやん・ししおどしの音が最高(笑)!!この組み合わせでお話が作れてしまうSanaさまが大好きですvvこのおはなしに限らず普段からも読んでいてとても楽しくなる上、吹き出して、さらに妄想暴走させていただけるネタの豊富さは頭が上がらないのです。

飾るのもご快諾いただけて嬉しかったです。手前味噌ながらありがたいことにウチのCMネタ、テキストのショートストーリーカテゴリの中でかなり反応があります。ひとえにあの時ご快諾下さったSana様のおかげです。ありがとうございますvvおかげでまたCM話を、というリクエストは良く頂くのですが、私からも現実CMとのコラボ、また見たいです〜vとおねだりをしつつ、短いですが御礼としてv(^^;。今後ともどうぞ宜しくお願いいたしますvvv