「それはそうと、お前は月籠りのリメイクの、なんとかいう主演俳優と随分懇意っぽいらしいな」
「はい?」



それは薮から棒なクーの一言から始まった。





KEY OF SUBCONSCIOUS






50人分くらいはあるのではないかと言う京野菜てんこもり鍋に着々と箸を進めながら、クーは突然キョーコに向かって呟いた。

今さっき『自分の息子を演じてみせろ』なんてとんでもない課題を出した人間が一体何を言い出すのか。


「 月籠りのリメイクでなくて『ダークムーン』です!それに、なんとかだなんて失礼な!敦賀蓮です!」
「そう、その俳優と…。一体どうやって知り合ったんだ?」
「は?だから同じ事務所の先輩で……」
「お前、LMEに何人俳優やら、タレントやらいると思っている?聞けばお前はついこの間デビューしたばかりの新人タレントだって言うじゃないか。そんなお前と、 月籠りのリメイクで一応主演を張るだけの俳優と、どこに接点があったんだ?」
「や、やっぱり私のようなジャリタレが、敦賀さんの後輩を名乗るだなんて畏れ多いですよねっ…て、さっきから『ダークムーン』で敦賀蓮、だと言っているじゃないですか!」



私の尊敬する先輩を侮辱するような言い方はやめて下さいっ、と憤慨するキョーコを気にもせず、


「お前が『信仰してる』相手なんだろう?(役者としてらしいが)『ダークムーン』の共演がきっかけか?」

あくまで尋問を続けるクー。


「いえ…、一応それ以前から敦賀さんとは面識ありましたけど…」
「ふーん?じゃあ、余程出会った頃の印象が良かったとか…?」
「え、敦賀さんが、ですか?」



『二度と来るな』


そう吐き捨て、LMEに入れて貰おうと必死な思いで事務所の扉を叩いたキョーコを容赦なくぽーんと正面玄関から放り出した初対面。
やっと椹を口説き落としてオーディションまで漕ぎ着けたキョーコを睨み殺さんばかりに本気怒りを向けた二回目。
ほっぺにマイナスポイントを押されたキョーコに似非紳士スマイルで「自業自得」と言い放った三回目……。

何故蓮がキョーコに対してだけは意地悪で冷たかったのか今ではちゃんと分かっているとは言え、出会った頃の蓮は好感を持てる人からは程遠かった。


「……出会った頃の敦賀さんと私ははっきり言って険悪でしたよ…。どちらかと言うとあまり印象は良く無かったです…」


過去の出来事の数々を思い起こし、乾いた笑みを浮かべつつ遠い目で答えるキョーコ。


「そうなのか?じゃあ、いつから仲良くなったんだ?」
「だ、だから私は別に敦賀さんと特に親しいって訳では…」


何でMr.といい、百瀬さんといい、私が敦賀さんと仲良しだなんて思うんだろう。そりゃあ、昔程嫌われてはいないと思うけど、軽井沢でも本気怒り向けられたし、ビーグルとの格闘の後もなんか怒ってらしたし……、そ、その後は凄く優しかったけどっ、などと心ならず真っ赤になりながら話題を変える事を試みる。


「それにしても、Mr.はよくお食べになりますよね!」
「腹が減っては戦は出来ん!からな」
「普通そこまで食べないと思いますが……。それだけ食べても太らないなんて、燃費が悪いんでしょうか」

「お前は失敬な奴だなっ。食べた分ちゃんと働いているっ」
「はぁーーっ、敦賀さんもMr.の50分の1でもいいから意欲的に食をとって下さればいいのに」
「何っ、あいつは相変わらず小食なのかっ」
「は?“相変わらず”?」
「…とボス(社長)から聞いてはいるが」
「はあ。やっぱり敦賀さんの空腹虫垂麻痺してるのって有名なんですか?」
「何?そこまで酷いのか?」

「ほっとくと、なんとかインゼリーとかカロリーなんとかばかりで…。それでよくあそこまで育ちましたよね」
「体が資本の仕事だと言うのに、何やっているんだっ」
「そうっ、そうですよね! Mr.だってそう思われますよねっ。なのに敦賀さんってば食に対する執着が皆無で、以前ファミレスに入った時も『胃の中に入ればおんなじ』って、私と同じ物注文するしっ。敦賀蓮ともあろう者がっ」


「 何っ、お前はあいつと一緒にファミレスに行った事があるのかっ」
「ええ。移動の途中にすぐ食事を済ませられそうな所って言ったらファミレスくらいしか無かったので…」
「わたしでさえ(一緒に)行った事が無いのにっ」
「 …Mr.がファミレスなんぞに現れたらそれこそ大変でしょう?SPどうするんですか…ファミレスなんかで食べたいんですか?」

「日本にいる間くらいは京都料理が食べたい」
「…ほんと、敦賀さんもMr.ぐらい食べたい物がはっきりしていらっしゃばいいのに」
「…お前は随分とそいつを気に掛けるじゃないか」

「だって、あそこまで食に無頓着だと心配にもなります!敦賀さんのスケジュールの多忙さは言語絶する殺人並なんですよ?体壊したら大変じゃないですか!」
「…随分と詳しいじゃないか」
「以前、代マネを勤めた事があるので……」
「ふーん?しかし、そこまで気に掛ける事か?」
「敦賀さんは私の尊敬する先輩です!」
「…だから、それだけでそこまで気に掛ける事か?」
「私の『尊敬する先輩』は心配に値しないとでもおっしゃるつもりですかーーっ」
「(やれやれ)まあ、心配するだけなら誰にでも出来るか」

「なんか、刺のある言い方をなさいますね…。とにかく、 Mr.みたいに多少なりとも食べたい物の意思表示をして下さればまだ対処し易いんですけど。何が好物なのかも分からないから、お弁当ひとつ差し入れるにも何を作ればいいのか悩んでしまって……」

「ぐ、けほっ、けほっ。(や、野菜が喉に詰まった…)お前は只の先輩にわざわざ弁当まで差し入れるのかっ」

「『只の先輩』でなくて『尊敬する大先輩』です!」
「どちらにしろ『先輩』の域は脱していないんだろう?そんな相手に普通弁当の差し入れなんかわざわざするか?そんなのはマネージャーの仕事だろう」
「敦賀さんのマネージャーの社さんも、料理はあまりなさらないみたいだし…。栄養が偏ると不味いからたまに差し入れてくれって、言われてますし」
「はぁーーっ(マネージャーもグルか…)で?お前だって最近暇ではなかろうにわざわざ作るのか?」

「 敦賀さんとスケジュールが合う時だけですよ?私は毎朝いつも自分のを作っていますから、一つ作るのも二つ作るのも大差ありませんし。Mr.にだって作っているじゃないですかっ。それも膨大な量を」

「俺のは、仕事の一環だろう。それとも、そいつのもそうなのか?もし、マネージャーに頼まれてなかったらしないのか?」

「、そんな事無いですけど……」

「で、あいつもその手作り弁当だけはしっかり食べる、と」

「敦賀さん、誰にでも温和で優しいから…。受け取った物はちゃんと食べて下さるみたいです」

「はぁーーっ、社交辞令だけで、何度も同じ人間からの弁当を受け取ったりはしないだろうに」



呆れたようにそう零したクーの言葉の意味が分からずにいるキョーコをそのままに、クーは再び鍋に向かうとひょいぱく、ひょいぱく食べ始める。



『本当によく食べる人だなぁ』


クーの食べっぷりを横目で見ながらしみじみと思う。
こんな人の息子だったら、やっぱり同じように大食漢かしら、それともーー…
ふと思い浮かんだのは、お弁当を手渡す時にお礼と共に浮かべる蓮の笑顔。いつ見ても怨キョが何匹もひからびてしまう程神々しい、ふわっとした柔らかい微笑。即座に目を隠したい衝動に襲われるものの、その実もっと見ていたいような気分にもなる。今まで深く考えた事は無かったけど、蓮にお弁当の差し入れをしなくなったら、その度に向けられるあの笑顔も見れなくなる。それは少し寂しいかも…。


『って、私ってば一体何考えているのっ。 Mr.の息子の役作りしなければいけないのにっ』


ぶんぶんと頭を振って気を引き締め、Mr.の息子、 Mr.の息子、と頭の中でブツブツ呟きながら、一生懸命想像力を働かせようとする。


『えーと、『月籠り』の嘉月で金字塔を打ち立てるくらいの凄い役者で、でも渡米する前に芸名のお葬式しちゃうような変な人で、会った早々殺気飛ばすは、人が苦労して作り上げた努力の結晶を生ゴミにするは、の嫌な人かと思ったら、お茶目なくらいに大食漢で、上辺だけ見るような嫌味な人かと思ったら、目から鱗のアドバイスをくれたり、課題出してまで演技の特訓させてくれるような真摯な部分もあって…』


よく分からない人だなぁ、とキョーコは改めて思う。そんな人の息子、と考え始めた時にふとさっきのクーとの会話を思い出す。


『 初めの頃は、敦賀さんも不可解な人だとよく思ったのよねぇ』


くす、と思い出し笑いしながら出会ったばかりの頃を彷彿する。勿論今だってよく分かっている訳では無いが…。


『敦賀さんとも会ったばかりの頃は険悪だったっけ…』


どちらかと言えば、 苦手な人、だったはずだ。でも、仕事に対する姿勢や思わず視線を奪われそうな演技を目の当たりにして行くうちに、いつの間にか役者として憧れと尊敬の念を持つようになって……。


『確かに Mr.も凄い役者かもしれないけどっ、今に敦賀さんだって Mr.と同じか彼を越えるくらいの役者になるんだからっ。絶対に!』


天井に向かって目をきらきらさせ、ぐっと、握り拳で力説する。もちろん、心の中で。
…そして、蓮もいつか日本から飛び立って行ってしまうのだろうか。クーのように、日本での芸名を捨てて。


そうしたら、只の後輩の自分にとって、蓮は今以上に雲の上の存在だ。気安く話し掛ける事も、声を掛けてもらう事も、??相談に乗ってもらう事も出来なくなる。そこに思い当たった時、何故か心臓がぎゅっと鷲掴みにされたような感覚に陥った。


『な、なんで敦賀さんがいつかいなくなるかも知れない、と思うだけでこんなにしんみりしなければいけないのーっ。使うべき想像力はそこじゃないでしょっ、自分!役作り!役作りでしょ!』



??それは「無意識の鍵」



自分の心の奥の奥、「意識」の錠のもと、幾重にも幾重にも厳重に封印された、封印したはずの「恋心」。些細なきっかけが無意識に心の扉を叩く度、少しずつ、少しずつ、扉を開ける「鍵」と成る………。




FIN (April 28, 2007 by markura)




2007.04.30

Special Thanks to markuraさま☆

またまた貰ってしまいましたvもう一本大作をUPしなければいけなかったのを私が作業を怠っている間に(苦笑)。すみません・・・ありがとうございますvvv

無意識の鍵、最近は施錠も大分緩くなって来た感じがしますよね(にや)vにしても・・・クーってどうしてこう、可愛いのだろうか(笑)。きょーこたんに微妙に焼きもち焼くとことか、何言っても許されてしまう、何ともいえない可愛さがあっていいです。そうそう。腹が減っては戦は出来んのだ!食べられるって素晴らしい事(@クー氏は食べすぎ)。

キョーコさんの、妄想と言う名の病もちxACT.104、とっても面白かったです。markura様のキョーコさんは、キョーコさんらしい!ので、とても素敵で羨ましいです(笑)。私にとってキョーコさんは、書き出すのに今でもとても難しい人です。

クーの息子を考えねばならないのに、うっかり蓮を考えてほわ~っとなって、しかもうっかり胸キュン(笑)してしまうキョーコたんに激萌えでした・・・・vふふふ・・・・v早く無意識の鍵を解いてね~~~~っ(笑)。



お忙しい中またまた頂きまして、本当にありがとうございましたv
改行レイアウト等お任せいただきありがとうございます。